本記事では、企業法務に携わる方が、日々の相談対応や審査業務をスムーズに進めるための「実務的なルール作り」のポイントを解説します。
法務相談の標準化するためのポイント3選
社内法務を円滑に進めるためには、各部門の担当者が、法務相談を統一的に行える環境を整えることが欠かせません。相談の入口が統一されていないと、情報不足や確認漏れが発生し、審査が遅れたり、担当者への負担が増えたりする恐れがあります。
そこで重要になるのが、次の3つの仕組みです。
- 法務相談の基準を明確にする
- 回答期日(リードタイム)を事前に設定する
- 相談の流れをフローチャートとして見える化する
これらを整備することで、相談内容の質が揃い、審査のスピードと正確性が向上します。また、担当者ごとの判断のばらつきも抑えることができ、各部門と法務の双方がストレスなく運用できるようになります。
以下では、それぞれのポイントを具体的に解説していきます。
法務相談基準を明確にする
なぜ基準が必要なのか?
結論から言うと、基準を設けることで、法務も相談する部門もラクになるからです!
基準を整備することで、法務担当者の業務負荷が軽減するだけでなく、相談する各部門にとっても大きなメリットがあります。
⚫️無駄な相談や確認が減る
基準が明確であれば、担当者は「どの案件を相談すべきか」を迷わなくなります。
「これは聞いたほうがいいのだろうか?」と判断に時間をかける必要がなくなり、結果として、担当部門の業務時間も削減されます。
⚫️必要情報を揃えて相談できる
基準があることで、相談時に必要となる情報も自ずと明確になります。
・契約金額
・取引先名
・業務範囲
・個人情報の有無など・・・
これらの情報が事前に揃っていれば、法務から追加の質問をする必要がなくなり、やりとりの往復回数が大幅に減ります。
結果として、法務担当者は後追いで情報を取りに行く必要がなくなり、担当部門も回答を待たされる時間が短縮されるため、両者の「待ち時間」が大幅に削減されるのです。
基準が曖昧な組織で起きる問題
では、法務相談の基準がはっきりしていないと、どのような問題が生じるのでしょうか?
⚫️相談するべき案件が漏れる可能性が高くなる
基準が明確でないと、何を相談すべきかわからないため、担当者の判断に差が出ます。
・リスクが高い案件なのに相談されない
・トラブルが起きてから法務に報告が入る
といった事態が起きやすくなります。
⚫️不要な相談が増える
上記とは逆に、軽い内容でも「念のため」で相談されます。結果として、法務担当者が本来優先すべき業務に時間を割けなくなり、対応が遅れてしまいます。
⚫️必要な情報が揃わず、やり取りが増える
基準がないと、相談に必要な情報が揃わないまま持ち込まれることで、追加確認の連絡など、何度もやり取りが発生してしまい、双方共に時間を失ってしまいます。
⚫️担当者ごとに運用がバラバラになる
基準がないと、担当者によっては相談する・しないがバラバラな状態となってしまい、統一感がなくなります。このバラつきは、組織としての信頼性を損ないます。
このように、基準が曖昧だと相談の漏れや不要な相談が増え、対応が遅くなるため、基準を明確にすることは法務と現場の双方にとって業務を軽減し組織全体の効率を高めることにつながります。
具体的に基準について
では、具体的にどのように基準を設定していけば良いでしょうか?
当然、会社ごとに規模も状況も違いますので、画一的な正解はありません。
しかし、 どの会社でも共通して使える考え方 があります。
⚫️リスクの高い領域を優先して相談対象とする
当然、法務リスクが高い領域から基準を整備するのが合理的です。
例えば、以下の場合は、法務相談を必須とすることをお勧めします。
・高額案件(例:1000万円以上の契約は全て相談対象に含める)
・新規取引先(特に海外・フリーランスの方との契約は問題なることが多い)
・特許・商標・著作権など知的財産に関する案件(譲渡や使用許諾など)
・自社で準備している雛形以外の契約書を使用する案件
・クレームや紛争になる可能性が高い案件
これらを整えることで、担当部は迷わず相談でき、法務担当は必要案件に集中できるようになります。
⚫️リスクの低い領域は相談の対象外とする
逆に、リスクが低い案件は、あえて法務相談の対象外とすることが重要です。
例えば、以下の場合は、法務相談は不要と整理しても良いかもしれません。
・自社で準備している雛形を活用する場合(※)
・グループ会社(連結子会社)と契約する場合
・直近1〜3年程度に法務担当からチェックを受けた契約書を流用する場合
・取引金額が一定額以下の場合
(※)大幅に修正される場合は、法務相談の対象とした方が良いです。
このような案件を「事前に対象外」と位置付けておくことで、担当部は自分たちの判断で業務を進められ、法務担当者は本当に確認すべき案件に集中できます。結果として、組織全体のスピードと効率が向上し、不要な待ち時間や手戻りが減ります。
回答期日(リードタイム)を事前に設定する
法務部門の最も多いトラブルは「期限不足」
法務の現場でよく聞く課題が、「いつまでに結論を出せばいいのかわからない」「気づいたら締結期限が目前になっていた」という、期限不足によるトラブルです。
契約審査は、単純に目を通すだけではなく、取引の内容や背景、リスクの洗い出し、担当部との調整など、様々なプロセスを踏む必要があります。それにもかかわらず、期限が直前になって初めて相談が持ち込まれると、法務担当者は急激な負荷にさらされます。
結果として、
・法務側は残業や慌ただしい対応が発生する
・担当部側も焦りや不安が生じる
・調整不足により契約品質が低下する
という、双方にとって望ましくない状況が発生します。
期日設定で遅延と心理的負担を防ぐ
そこで有効なのが、事前に「標準的な回答期日(リードタイム)」を定めることです。
例えば・・・
・自社雛形の契約書の審査:5営業日
・取引先からの他社雛形審査:7営業日
・重要契約(戦略的提携等):10営業日
といった形で、あらかじめ「必要な時間」を明確にしておきます。
ポイントは、あくまで「標準リードタイム」であり、例外もあり得るという前提で設定することです。
このルールがあるだけで、担当部は早めに準備しやすくなり、法務担当者も余裕をもって対応することができます。結果として、期限ギリギリの依頼やトラブルが大幅に減少します。
当然、会社ごとに状況を違うと思いますので、期日は臨機応変に対応いただければと思います。
どうしてもわからない場合は、同業他社の法務部門と交流があれば聞いてみても良いかもしれませんね!
相談の流れをフローチャートとして見える化する
各部門担当者は、法務相談する際に「何をすれば良いか」がわからない
法務相談で起きがちな課題の一つが、「案件がどう進むのかがわからない」「どこで法務担当に相談すればよいかわからない」という不透明さです。
そこで、有効となるのが、相談フローをフローチャートとして「見える化」することです!
例えば、以下のフローチャートでは、契約書締結までの業務の中にどの場面で法務部門が関わってくるかが明示されているかと思います。

これは、あくまで一例ですが、このように「関与のタイミング」を示しておくことで、現場担当者は迷うことなく次のステップへ進むことができるようになるかと思います。
まとめ
本記事では、社内法務の負担を軽減し、契約締結までのプロセスをスムーズに進めるための「実務的なルール作り」について解説しました!
ポイントは次の3つでした!
- 法務相談の基準を明確にする
- 回答期日(リードタイム)を事前に設定する
- 相談フローをフローチャートで見える化する
これらのルールは、法務の負担を軽減するための仕組みであると同時に、担当部門にとっても業務が進めやすくなる仕組みです。
ルールを整えることは、法務を楽にし、会社を強くする最も確実な投資になりますので、ぜひ実践していってくださいね!

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